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【寄稿コラム】雪花雪中塾からの招待状2「雪花雪中塾誕生秘話」

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雪花雪中塾からの招待状2「雪花雪中塾誕生秘話」

雪室りんごや雪下にんじんは、雪中でより甘くなると言われています。厳しい環境の中でより良い方に育つという特徴に重ね、今は隠れて見えない、地域の人財、産物、資源を、塾を通して見出したいという想いを込めた「雪花雪中(せっかせっちゅう)」。社会・地域課題の解決について、対話や講義を通じ、共に学び、考える場を作り、新ビジネスや地域おこしに取り組んでいく人財が育つよう「雪花雪中塾」のコーディネーター・講師のオール株式会社代表取締役の山崎宇充(うじゅう)さんが語る。

コロナ禍の出会いから生まれた青森との縁

 前回は、私の体験談を含め大人になって学ぶことの楽しさについて論じたが、今回は、そういった経験から立ち上げた人財育成 雪花雪中塾の誕生秘話を紹介したい。

 私が、2017年4月に50歳で立教大学 社会人大学院 21世紀社会デザイン研究科(現 社会デザイン研究科)に入学し、2019年3月に無事修了して、同大学の社会デザイン研究所の研究員として研究の継続をすることとなった。同時に東京メトロポリンタンテレビジョン(MXTV)の常務取締役として入社し、放送事業の責任を担うこととなった。

 この1年後、世界を震撼させたパンデミック コロナの蔓延が始まる。 身動きの取れない社会、未来への不安、隣の人を疑うように距離を取る社会、さまざまな不安が蔓延する時に、Facebookに1通のメッセージが入る。

 大学院の時、私は中村陽一先生(現 立教大学名誉教授)のゼミに所属し、指導を受けた。中村先生は、社会デザインという多角的学問を世に広めた第一人者である。メッセージには、社会デザイン研究所と青森商工会議所の連携で、地域人材を育成する学びの場を作りたいが、地方創生と言えば山崎さんなので一度話を聞いてもらえないか、といった内容であった。後日、、青森商工会議所とオンライン会議をすることとなる。

 MXTVでは、コロナによって報道以外の番組収録をせずに過去の番組を流していた。 毎日、私の元には社員の健康状態が報告され、番組休止中の制作会社への対応、タレント事務所への対応、報道局から夜の番組構成など、密を避け、それぞれの席からZoomを使ってオンライン会議をする日々であった。 その合間に、中村先生から届いたZoomのURLに繋ぎ、会議の開始を待った。

 会議が始まると、その相手は、当時、青森商工会議所副会頭であった西秀記氏、現青森市長その人であった。 西氏からは、商工会議所をベースとした人材育成をしたい。 地域社会の回復力を強化し、地域力を向上させるため、社会デザインをベースとした学びの場を作りたい。西氏の想いは熱く、強かった。

 過去12年に渡り取り組んできた地方創生や地域活性化のノウハウを整理して講義にする。 中村先生からの紹介ということもあるが、コロナ によっていつも強気であった私も一抹の不安を心の片隅に感じていた時期でもあり、加えて、社会デザイン学 修士を取得したとはいえ、学んだことを活かせる場を探していた私にとって、その学びの場に登壇する、この話は、久しぶりに未来を感じさせられるものだった。

 数回に渡り、商工会議所の方々と打ち合わせをしながら、まずオンラインで講演会を実施しましょうという事となり、2021年2月5日に商工会議所主催による「地域資源を活かした魅力創出 -地域ブランディングによる新ビジネスとは -」を実施する。

 この講演会において、中村先生は社会デザインの可能性を説き、トークゲストで参加した竹内氏(現 青森中央学院大学 教授)は、青森の可能性、若者の活躍する場をどう創造するか、など丁寧に話をされ、私は過去の経験から地域に眠る可能性、よそ者の視点、など説明した。

 そして、この講演会の後に西氏から改めて、こういった講演会、講義を月一回実施したい。 規模や人数ではなく、やる気のある人が集まり、そこで学び、地域の活動に活かせるような人材を輩出する。今の青森には、そういった人材が多く必要なのだと。

 首都圏は即戦力の「できる人」を奪い合い、地方は未完成でも挑む「やる気のある人」を待ち望む。西氏の話を聞き、私はそう思った。 とかく、「できる人」、とは曖昧な表現であり、自薦他薦を問わず「できる人」、「完璧な人」に出会うことは稀である。たぶん出現率も低いだろう。 しかし、「やる気のある人」は、見ただけでわかるし、その出現率も高いかもしれない。 そう、この学びの場に集まる人材は、たぶん、「やる気のある人」なのだ。

「雪花雪中」に込めた思い

 時を置かず、学びの場の打ち合わせは行われた。 どんな名称で、どんな仕組みにするのか。 その名称の考案は私に委ねられた。

 数年前、私は、山口県の萩市と数年契約で地域ブランディングを検討する一員として活動していた。 毛利家、長州藩、質実剛健なこの地の教育は素晴らしいのだろう。 登下校する小学生に出会うと、「おはようございます、こんにちは」とすれ違う際に足を止め挨拶をしてくれる。 藩校明倫館、松下村塾、学問を基盤とし、明治維新を舞台に、今の日本の基礎を築いた人材を多く輩出した地でもある。 私は、萩市に通う日々の中で吉田松陰という人物に興味を持ち、氏の本を何度も読んでいた。

天地の大徳、君父の至恩。
徳に報(むく)ゆるに誠を以てし、恩に復するに身を以てす。
此の日再びし難(がた)く、此の生復(ふたた)びし難し。
此の事終えずんば、此の身息(や)まず。

天地にはすべてのものを生き生きと育てる大きな徳があり、君主と父母にはこの上もない深い恩愛がある。天地の徳に報いるには、まごころをもって尽くすべきであり、君主と父母の深い恩愛には、全力を尽くして報いるべきである。今日という日は再びめぐってこず、この一生も二度はない。これを成しとげなければ、この身を終えることはできない。

 松下村塾、吉田松陰先生、大袈裟ではなく、尊敬と憧れから、いつか学びの舎を築くなら、○○塾と名に記したいと考えていた。商工会議所の面々に、青森といえば、と問うと、雪、りんご・・・と並ぶ。 雪か、と検索を開始すると一枚の写真と出会う。

 なるほど、雪(氷)を顕微鏡で見るとこう見えるのか。 雪の花、雪花(せっか)。 雪の中に花のある人材がいる。 雪の中にりんごを貯蔵すると甘くなる。 雪室、雪の中に、、、、、雪中。 青森の地で、人材が貯蔵され、育っていく。 うん、雪中(せっちゅう)。 雪花雪中(せっかせっちゅう)塾。

 西氏、中村先生を含め、オンライン会議に参加した面々からの同意も得て名称が決まる。 この時、西氏からの依頼で、この塾では人材を人財に変えたい。 つまり地域の「材」ではなく、地域を築く「財」となってほしいのだと。

 人財育成 雪花雪中塾は、こんな経緯で誕生したのである。 2025年4月から雪花雪中塾は第5期目を迎えている。


(写真提供=青森商工会議所)

次回は、「雪花雪中塾からの招待状3 - 雪花雪中塾 第一回目講義 2021年9月25日編-」。11月中旬更新予定です。

雪花雪中塾からの招待状1「大人になって学ぶ楽しさ 」(2025年10月27日更新)

山崎 宇充(やまざき うじゅう)
30代でIT、メディアの上場会社で役員を歴任し、40歳で独立。 IPO支援、新規事業開発、事業再生、地方創生事業など幅広い分野でコンサルタントとして実績を積み上げる。 2024年9月に青森にオール株式会社(Aomori Legacy Linc = ALL)を仲間と設立。 人財育成 雪花雪中塾 コーディネーター 兼 講師 神奈川大学 客員研究員。TECH HUB YOKOHAMA メンター。
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