
雪室りんごや雪下にんじんは、雪中でより甘くなると言われています。厳しい環境の中でより良い方に育つという特徴に重ね、今は隠れて見えない、地域の人財、産物、資源を、塾を通して見出したいという想いを込めた「雪花雪中(せっかせっちゅう)」。社会・地域課題の解決について、対話や講義を通じ、共に学び、考える場を作り、新ビジネスや地域おこしに取り組んでいく人財が育つよう「雪花雪中塾」のコーディネーター・講師のオール株式会社代表取締役の山崎宇充(うじゅう)さんが語る。
将来、日本には「消滅可能性都市」と呼ばれる場所がいくつも生まれると推測される。
人口が減り、働き手が減り、地域の維持に必要な機能が静かに痩せていく。遠い国の話でも、山間部だけの話でもない。2024年4月に発表された「人口戦略会議」の調査で、青森市は「消滅可能性都市」にリストアップされた。これは、20歳から39歳の女性人口が2020年から2050年までの30年間で半数以下になる自治体を指す。青森県内では全40市町村のうち88%にあたる35市町村が対象となっている。こういった話を聞くと胸がざわつくのは、その言葉が誰かを責めるためではなく、私たち一人ひとりの暮らしの輪郭に触れてしまうからだ。 学校、病院、交通、商い、文化、祭り、当たり前だったものが「当たり前ではなくなる」瞬間が少しずつ増えていく。
私は消滅可能性都市という言葉が現実味を帯びるほど、逆に私たちは問われているのだと思う。「この街を、どんな街として未来へ手渡したいのか」と。

私が大学院で社会デザイン学を学び、修士論文のテーマである地方課題の一つに「人口減少の未来」を選んだ際、未来は予測の対象であると同時に設計の対象でもあると考えた。もちろん、未来は思い通りにはならない。人口動態も、産業構造も、気候も、地政学も、テクノロジーも、私たちの意志だけで動くものではない。未来を語ることをやめてしまった瞬間に社会は本当に動けなくなる。 希望は気分的なものではなく設計の作業の中で育くむことができるのである。
<未完成である自覚>
私自身、はじめから「教育の人」、「学びの人」だったわけではない。第1章で紹介したが、私は50歳で学び直しの門を叩いた。いま思えば、あれは知識を増やすためというより自分の中の思い込みをほどくための学びだった。大人になるほど経験は増える。だが経験は、ときに視野を狭める。 わかったつもりを強くする。 判断が早くなる代わりに、問いが減る。だから学ぶという行為は積み上げることよりも、外すことに近い。鎧を外し、見栄を外し、「私はまだ知らない」と認める。 その瞬間だけ、世界がまた広がり始める。
私は、いつも雪花雪中塾は、そういう学びの原点に立ち返る場所であってほしいと願っている。

ネットの普及によって一見すると、いつも人、仲間が側にいると思う人も多い。しかし実態は人と人の距離が広がり、身近な話題に注視し将来を語ることすら躊躇(ちゅうちょ)される。そして、社会が不安に覆われるほど、人は「守ること」へ傾く。守ることは大切だが、守るだけでは縮む。縮む社会の中で必要なのは、ほんの少しでも「つくる側」へ戻ることだ。
未来をつくる側に戻るために必要なのは、特別な才能ではない。問いと学びと実践の反復ではないかと私は考える。学びは本来、誰かに管理されるものではなく自分で選び取るものだからだ。こちらができるのは、学びが起こりやすい環境を整え、問いを置ける場を守り、挑む人を讃(たた)えること。そして、学ぶかどうか、続けるかどうかは、徹底して本人の主体性に委ねられる。 学びの継続は自らの未完成さと向き合う時間となり、苦しさを感じることがある。「学ぶほど、自分が何もできていないことがわかる」と。

雪花雪中塾を主宰する山崎氏
だが私は、その苦しさを大切にしたい。苦しさは、学びが始まった証拠だ。限界が見えるのはつらい。しかし、限界が見えないままの人生より、限界が見えた人生のほうが確実に前へ進める。なぜなら、限界が見えた瞬間から、人は設計を始められるからだ。消滅可能性都市という言葉に触れて胸がざわつくのも同じだと思う。ざわつきは絶望の合図ではない。未来に触れたからこそ起きる反応であり、問いの入口である。
<危機感の共有>
消滅可能性都市という言葉が、いつの間にか「誰かの話」ではなくなっている。青森市ですら、その射程に入ると語られる時代だ。人口が減る、担い手が減る、税収が細る。数字が示すのは生活そのものの輪郭である。学校、病院、交通、商い、文化、どれか一つが欠けると次の減少が連鎖し、街は静かに弱っていく。危機感とは恐怖を煽る言葉ではない。 変化の速度に対して私たちの思考と行動が追いついていないという「ずれ」を自覚する感覚だ。
雪花雪中塾でまず共有するのは、そのずれを直視する勇気である。そして同時に、危機は単なる衰退のサインではなく成長の入口になりうるという見方だ。ポーランドの心理学者カジミエシュ・ダブロフスキは、内的・外的な危機を経験することで既存の価値観や自己認識が一度解体され、それを乗り越える過程でより高次の人格が形成されると捉えた。危機や混乱は成長の前提条件であり自己の内面と向き合い新たな価値体系を築くことで真の自己実現に近づく、いわゆるポジティブ・ディスインテグレーション理論である。
いま地域で起きているのは、まさにこの「解体」の局面だと思う。これまで正しいと信じてきた前提、当たり前だと思っていた仕組み、努力すれば報われるという感覚。そうしたものが、人口減少や産業構造の変化、気候や技術の転換によって揺さぶられている。だから苦しい。だから不安になる。 だが、ここで目を背ければ、解体は「崩壊」になる。危機感を、諦めの共有にしない。危機感を、問いの共有へ変える。 問いが生まれれば、学びが始まる。学びが始まれば、行動が生まれる。行動が生まれれば、未来は「待つもの」から「つくるもの」へ変わっていくのである。
<問題と課題>
最後の章ということもあり、もう少し踏み込んでいきたい。
よく「問題」と「課題」を混在して議論するケースがある。確かに、「問題」と「課題」は似ているよう感じるが、「問題」は、いま目の前にある具体的な障害や困難で短期的に対処しないと生活や組織を直撃する。一方、「課題」は、目標や望ましい状態とのギャップであり、長期の視点で取り組むべき「テーマ」である。 問題は痛み、辛さとして強く記憶に残るから、気づけば思考が「火消し」に占領され、未来を描く余白を奪ってしまう。
次に重要になるのが思考の型だ。 アルゴリズム思考は、時間をかけて規則的に手続きを踏み、原則として正解へ近づく。 例えば、「誰かの暗証番号を調べる」とした場合、「0000」から「9999」まで調べあげる。
一方、ヒューリスティックス思考は経験則で、つまり感や習性などから短期の成功を引き当てようとする。同じように、「誰かの暗証番号を調べる」とした場合、生年月日、携帯番号の下4桁、住所などから、いわば、「こうではないか」、「そんな感じがする」と特定して想像する。
問題に追われ続ける状態は経験則の連打になりやすい。
社会問題に対し、ヒューリステックスに陥ると目の前の出来事に反応して「とりあえずの対策」を繰り返しがちです。その結果、原因を深く考えないまま場当たり対応になり同じ問題が何度も起きて、中長期の改善に手が回らなくなります。
でも「課題」をアルゴリズム思考で捉えると、まず目指す未来を言葉にし、次に今とのギャップを見える化できます。 そのうえで、必要な手順を小さく分解し、優先順位を付けて順番に実行し、結果を見て修正します。 道筋ができるので、場当たり対応から抜け出し、迷っても戻れる。 次の一手が明確になり、周りも動きやすくなります。
「問題」と「課題」を混ぜない。まず整理し、思考を明確化する。 問題は適切なタイミングで片づけ、同じ事が繰り返されないために課題として残す。 課題は日々の忙しさの外側に置きながら、引き出しに入れ、じっくりと考え、往復運動する。いずれ浮かび上がる火消しの方法が見えるまで、未来へ踏み出すまで。普段から問題意識と課題意識を分けて考えるようにすることで、生活や仕事においても、解決に向かう「速度」と「質」が同時に上がっていく。目の前の火種に振り回されず、いま片づけるべき問題を見誤らない。そして、すぐには答えが出ないものを無理に結論へ押し込めず、課題として丁寧に保管し、必要なときに取り出して磨き直せる。
さて、第6章まで種々雑多に雪花雪中塾の学びの根幹について紹介してきた。難しいことを教える訳ではなく、気付きを与えるための塾である。
入塾当初より、この塾に参加したから「何か」をしなければならないということではない、と常に伝えています。ただ、「何かしたい」と思った時のための学ぶ場であると。当然、青森の未来に不安を感じている人には立ち上がって欲しいし、様々な活動を支えて欲しいという思いは常にある。しかし、強制する訳ではない。
雪花雪中塾に参加して欲しいのは、「やる気のある人」だ。 完璧な人ではない。未完成のまま一歩を出す人なのです。学ぶきっかけや動機も様々だと思うし、継続できるか不安という思いも理解できる。やはり、学ぶことは真剣であるべきだが、楽しさも大事なのだ。塾では、フィールドワークをしたり、懇親会をしたり、塾生との時間を私も楽しんでいる。
是非、雪花雪中塾の招待状を受け取ってもらいたい。そして、今後自分が何をすべきなのか、どう行動すべきか、を模索する人たちへ。

浅虫で行われたワークショップの様子
最後まで読んでくれて、ありがとうございました。 来年是非お会いしましょう!! 2026年が皆様にとって素晴らしい年になりますように!!<完>
人財育成雪花雪中塾
https://sekkasetchu-juku.com
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