特集

【寄稿コラム】雪花雪中塾からの招待状5「未来予測からアクションを考える」

  • 62

  •  

雪花雪中塾からの招待状5「未来予測からアクションを考える/バックキャスティング思考」

雪室りんごや雪下にんじんは、雪中でより甘くなると言われています。厳しい環境の中でより良い方に育つという特徴に重ね、今は隠れて見えない、地域の人財、産物、資源を、塾を通して見出したいという想いを込めた「雪花雪中(せっかせっちゅう)」。社会・地域課題の解決について、対話や講義を通じ、共に学び、考える場を作り、新ビジネスや地域おこしに取り組んでいく人財が育つよう「雪花雪中塾」のコーディネーター・講師のオール株式会社代表取締役の山崎宇充(うじゅう)さんが語る。

未来を考えるということ

 私は現在58歳。父親は早世であったが、今自分が健康であることを考えれば、今は亡き両親に感謝をしなければならない。多くの試練を乗り越えて、ある程度出世し、結婚し、子供にも恵まれ、その上で自由に生きている。振り返れば貧しい生活からの脱却、不安と不信の中で生きていた私が、地方の何かを変えようと邁進するなど到底考えられなかった。しかし、私の人生は今、未来との架け橋となる生き方をしようとしている。周りから人生を無駄に消費しているように言われるが、それでも大小に関わらず何か貢献したいと言う欲求が私の今を形成している。

<未来を探る>

 未来は想う通りにはできないが、未来を目指すしか課題を超える方法はないのである。

 雪花雪中塾の講義の中でも、「未来をどう描き、そこから現在の行動を導くか」というテーマは、毎期必ず塾生たちの思考を大きく揺さぶる内容である。目の前の課題に追われ続ける生活の中で、「未来」をじっくり考える時間を持てる人は少ない。日常の雑務は容赦なく押し寄せ、今日の判断は今日の問題に費やされていく。だが、それでは社会の大きな変化に取り残されることも流れに飲まれることも避けられない。

12月14日に青森スタートアップセンターで特別講演が行われた
12月14日に青森スタートアップセンターで特別講演が行われた

 だからこそ雪花雪中塾では、「未来予測」という遠いテーマをあえて学びの中心に据えている。 この講義の核となるのが、「バックキャスティング思考」である。

バックキャスティング思考とは

 バックキャスティングとは「こうなりたい」と願う未来をまず先に描き、そこから逆算して現在の行動を決めていこうとする考え方だ。一般に私たちは、過去と現在の延長に未来を置きがちである。人口が減っているから将来も減る、資源が乏しいから今後も乏しい、地域経済が衰退してきたから今後も衰退するだろう。


大きくする→

 こうした「フォアキャスティング」型の思考は、現状を分析するには便利だが、それだけでは未来を創る主体にはなれない。望ましい未来は、現状の延長線上にはほとんど存在しない。だからこそ、未来から現在を見る視点が必要なのだ。 バックキャスティングの話をすると最初は誰もが戸惑う。 なぜなら、未来を語ることは同時に自分の価値観を露わにする行為だからだ。

 人は自信のないテーマについては語りにくいし、語っても自分の言葉に確信を持てない。しかし、時間をかけて問いに向き合うと塾生たちの中に徐々に輪郭が浮かび始める。「地域がもっと挑戦できる空気になれば」、「若者が誇りを持って働ける場が増えれば」、「外から来る人と中にいる人が自然に混ざり合ってほしい」、どれも、誰かがつくってくれる未来ではない。自分たちがつくりたい未来である。 雪花雪中塾の独自性は、この「願い」を大きく扱う点にある。

<願いから考える>

 普通の研修では、課題解決の方法論や技術が中心になる。しかし塾では、あえて願いや想いを重視したいのだ。それは、望む未来を描けない人は、どれほど優れた分析力を持っていても大きな行動を起こせないからだ。行動はいつも感情の奥にある「願い」から生まれる。未来予測とは、実は未来のデータを読む作業ではなく自分の価値観を丁寧に見つめ自分が何に心を動かされるのかを知る内省でもある。未来を描いたあとで初めて、バックキャスティングが本領を発揮する。はなく自分の価値観を丁寧に見つめ自分が何に心を動かされるのかを知る内省でもある。未来を描いたあとで初めて、バックキャスティングが本領を発揮する。

 10年後にこうなりたい。そのためには5年後にどの状態であるべきか。では3年後は?1年後は?来月は?明日は? と未来から時間軸を戻していく。そのプロセスで今必要なアクションが明確に浮かび上がる。目の前の課題に振り回される「受動の思考」から、未来に向かって現在を設計する「主体の思考」へと切り替わる。

課題を抱える地方だからこそ

 この思考法を学ぶ価値は、地方にこそある。青森のように人口減少、産業構造の変化、労働力不足など多くの課題を抱える地域では、問題を数え上げるだけで気力が萎えてしまうことも少なくない。

雪花雪中塾で学ぶこと
大きくする→

 虫の目で課題の細部にばかり目を向ければ解決の糸口が見えず、諦めの感情が先に立つ。しかし、鳥の目で俯瞰し、魚の目で時代の流れを見つめ、コウモリの目で常識を疑いながら問い直すことで、課題の捉え方そのものが変わっていく。講義の中で、塾生に必ず伝えている言葉がある。「未来は予測するものではなく、設計するものである」。

<未来を設計する>

 未来予測の技術は確かに重要だ。データ分析、人口動態、経済予測、テクノロジーの動向など多くの学術的知見が未来を描く際の重要な材料となる。しかし、それらは“未来をつくるための素材”に過ぎない。最も大事なのは自分が何を望むのか、地域はどの方向へ向かうのが幸福なのか、その価値判断である。

 未来予測には、もう一つの側面がある。未来を描くほどに、いまの自分の限界が見えてくるのだ。 行動に移せない理由に気づくのはつらい。だが、それを直視することこそ成長の第一歩でもある。 塾が大切にしているのは、未来を「上手に語る」ことではない。 未来を語りながら、自分の思考の枠や癖に気づき、そこから一歩踏み出すプロセスである。

 その気づきを重ねることで、人は新しい行動へと踏み出せるようになる。


大きくする→

未来をつくる主体は

 塾生たちは、この講義を経て毎期大きく変化していく。「自分には無理だと思っていたことをやってみたい」、「地域の課題を他人事ではなく自分事として考えられるようになった」、「未来を描く方法を学んで考えが変わった」といった声が数多く寄せられる。未来を描くことが、人生の軸を揺さぶり、価値観を再構築する契機になるのだ。

 未来予測の講義をするたびに思うことがある。それは、未来とは不確実だからこそ、人は怯え、同時に希望を見いだすということだ。 不確実性は恐怖を生み、恐怖は行動を止める。しかしその不確実さは、同時に「どのようにも変えられる可能性」をも内包している。未来の扉は閉ざされて見えるが、実は内側からしか開かない。 未来をつくる主体は、いつも「今の自分自身」である。

12月14日に行われた特別講演の山崎さん
特別講演の参加した山崎氏

 バックキャスティング思考は、その扉を開くための鍵である。 望む未来を明確に描き、その未来を他者と共有し、そこから逆算して行動を組み立てる。この方法は、個人にとっても、企業にとっても、そして地域にとっても有効だ。地域の未来は、行政や企業がつくるものだと思われがちだが、実際には市民一人ひとりの思考と行動の積み重ねの上に築かれる。雪花雪中塾が「未来を考える講義」を大切にする理由はここにある。 未来を描ける人が増えれば、地域の未来も変わるからである。

 いよいよ次回が最終話。雪花雪中塾は月1回、オンラインでも参加できる学びの場である。誰でも、何歳でも、どんな仕事をしていても学べる場である。難しいと感じても学び続ければ、必ず理解できる。理解出来たとしても行動に起こさなければ、すぐに忘れてしまうかもしれない。結局、学び、経験し、失敗し、更に学び、再度挑戦し、、、この繰り返しなのだと思う。

次回は、雪花雪中塾からの招待状6「雪花雪中塾からの招待状」12月下旬更新予定です。

雪花雪中塾からの招待状4「多視点で磨く思考力」(2025年12月10日更新)

雪花雪中塾からの招待状3「本当の学びとは」(2025年11月19日更新)

雪花雪中塾からの招待状2「雪花雪中塾誕生秘話」(2025年11月10日更新)

雪花雪中塾からの招待状1「大人になって学ぶ楽しさ」(2025年10月27日更新)

山崎 宇充(やまざき うじゅう)
30代でIT、メディアの上場会社で役員を歴任し、40歳で独立。 IPO支援、新規事業開発、事業再生、地方創生事業など幅広い分野でコンサルタントとして実績を積み上げる。 2024年9月に青森にオール株式会社(Aomori Legacy Linc = ALL)を仲間と設立。 人財育成 雪花雪中塾 コーディネーター 兼 講師 神奈川大学 客員研究員。TECH HUB YOKOHAMA メンター。
  • はてなブックマークに追加

青森経済新聞VOTE

青森経済新聞に期待する記事は?

エリア一覧
北海道・東北
関東
東京23区
東京・多摩
中部
近畿
中国・四国
九州
海外
セレクト
動画ニュース